相続登記の義務化については、令和6年4月1日以降の情報です。

相続登記等を申請しない場合のリスク

令和6年4月1日より相続登記等の申請が義務化されましたが、もし相続登記等を申請しなかった場合、どのような問題が起きるのでしょうか?
例えば、次のようなリスクが考えられます。

1.過料(罰則)の問題
2.持分売買等による第三者登場のリスク
3.より複雑化した相続手続きの次世代への持ち越し

以下、項目ごとに解説します。


1.相続登記申請義務違反の罰則

本項の内容は、令和5年9月12日法務省民二第927号通達に基づきます。

罰則の概要

相続登記の申請義務があるにもかかわらず、正当な理由なく期限内に登記申請等を行わなかった場合、10万円以下の過料に処せられるおそれがあります。

過料決定までの流れ

ある日突然過料の通知が届くわけではありません。
具体的には次のような流れを経ることになります。

  • 相続登記の対象となる不動産を管轄する法務局の登記官から、期限内に登記申請等を行うよう催告の通知(以下「申請の催告」)が届きます。
  • その後、通知の期限内に対応せず、かつ、対応しないことに正当な理由がないと判断された場合は、登記官から管轄地方裁判所へ過料の通知がなされます。
  • 管轄地方裁判所の判断により過料(10万円以内)が決定されると、過料を支払うことを命ずる文書が届きます。

登記官が「申請の催告」を行う端緒

今のところ、次のうちどちらかに該当する場合に限り、登記官から申請の催告を行うこととされています。

  • 相続人が遺言書を添付して遺言内容に基づき特定の不動産の所有権移転の登記を申請した場合において、当該遺言書に他の不動産の所有権についても当該相続人に遺贈し、又は承継させる旨が記載されていたとき。
  • 相続人が遺産分割協議書を添付して協議の内容に基づき特定の不動産の所有権の移転の登記を申請した場合において、当該遺産分割協議書に他の不動産の所有権についても当該相続人が取得する旨が記載されていたとき。

※ただし、今後、法務局が独自に取得した死亡等の情報に基づく取扱いに変更される可能性は十分にありますので注意が必要です。

「正当な理由」の具体例

たとえ登記官から申請の催告が届いたとしても、期限内に相続登記等を申請できないことに正当な理由がある旨を申告し、登記官が正当な理由があると判断した場合は、過料の通知はなされません。
正当な理由があるかどうかは、ケースごとに事情を総合的に考慮して判断するようですが、具体例としては次のようなものが挙げられています。

  • 相続人が極めて多数に上り、かつ、戸籍関係書類等の収集や他の相続人の把握等に多くの時間を要する
  • 遺言の有効性や遺産の範囲等が争われているため、相続不動産の帰属主体が明らかにならない
  • 相続登記等の申請義務者自身に重病その他これに準ずる事情がある
  • 相続登記等の申請義務者が配偶者からのDVにより生命・心身に危害が及ぶおそれがある状態で避難を余儀なくされている
  • 相続登記等の申請義務者が経済的に困窮しており登記費用を負担することができない


2.持分売買等による第三者登場のリスク

せっかく遺言や遺産分割協議で不動産の所有権を取得したとしても、相続登記をしない間に、他の相続人が法定相続分で登記をしてその持分を第三者に売却してしまった場合、その第三者に権利を主張することができなくなる可能性があります。

「登記は早い者勝ち」という言葉を聞いたことがあるかもしれません。
例えば、不動産の権利が二重に移転している場合、その勝敗は先に登記したかどうかで決せられます(対抗要件)。
令和元年7月1日以後に開始した相続については、法定相続分を超える部分の権利の承継については、登記をしなければ第三者に対抗できないこととなりました(民法899の2)。
これにより、遺言や遺産分割協議で不動産の所有権を取得したとしても、他の相続人が法定相続分の相続登記をしてその持分を第三者に売却してしまうと、その持分については第三者のものになってしまう可能性があります。
最近は不動産の持分買取を積極的に行う不動産業者もおられるようですので、過料だけでなく、権利の保全という意味でも速やかに相続登記を申請する必要があります。


3.より複雑化した相続手続きの次世代への持ち越し

相続は人の死亡により必ず発生し、その度に次の相続人へ自動的に権利が承継される仕組みですので、相続を重ねる度に問題が複雑化するケースがほとんどです。
次の世代に見送れば見送るほど、より問題は複雑化し、時間と費用が過大にかかる問題として次の世代に持ち越される可能性があります。
ケースにもよりますが、一般的には一代でも早く相続関係を整理することをお勧めするところです。